翌日の日曜日…
私は隼太くんの車で静岡県へとやってきた。
雪乃さんを脅迫してきた犯人に心辺りがあったからだ。

『結城建設』

車を降りて、私はその看板を見上げた。

そう
私が疑っている人物とは、あの結城さんだった。

雪乃さんに執着し、加瀬さんを恨んでいる彼なら、動機は十分にある。
二年前も今回も、雪乃さんと加瀬さんの仲を引き裂くのが目的だったに違いない…。

そう思ってここまで来たけれど…
いざ会うとなると、さすがに緊張する。

「ここか?」

隼太くんの言葉に私はコクリと頷いた。

よし!
私は覚悟を決めて、インターホンを押した。


***


「久しぶりだね 沙耶ちゃん… まさかボディーガードまで連れてくるとは思わなかったけど、会えて嬉しいよ。きちんと謝りたかったしね… 色々と」

応接室のソファーにすわりながら、結城さんがそう言って笑った。

穏やかな口調はいつもの結城さんだった。
あんなことをした結城さんにはとても見えない。

「あの、結城さん… もし、私にしたことを悪いと思っているのなら、正直に答えて下さい。雪乃さんに変なメールを送ってきたのって、結城さんですよね?」

いきなりそんな質問をしたのは、彼がどんな反応をするのかを見たかったからだ。

「メール? 何のことかよく分からないけど… 雪乃ってまだフランスにいるんじゃなかったの?」

結城さんはそう言って首を傾げた。
そりゃ、そうか…
証拠も何もないんだし、きっと、このままシラを切られて終わりだろう…。

でも、こっちだって、ここで引き下がる訳にはいかない。

「惚けないで下さい! 昨日、バイクで脅しをかけてきたのも結城さんでしょ? もう二度と加瀬さんに手を出すのはやめて下さい! もし、これ以上するつもりなら、結城さんが私を襲ったこと、今から警察に話して被害届出しますよ! そしたら、この会社だって信用なくすだろうし、この町にだっていられなくなりますからね!」

私は結城さんに認めさせようと必死だった。
けれど…

「そう言われても、ホントに僕じゃないからさ… バイクの免許だって持ってないしね」

その後も、いくら問い詰めても、結城さんは一向に認めなかった。

「沙耶、この人違うんじゃねーの?」

隣で黙って聞いていた隼太くんも、さすがに口を挟んできた。

「本当に結城さんじゃないんですか?」

「本当に違うよ… 何度も言ったけど僕にはとっくに雪乃への執着心なんてないからね… それに、加瀬と雪乃が再会したのなら、僕に取っては好都合だし」

「え? どうしてですか?」

「僕が沙耶ちゃんのことを好きだからだよ… 沙耶ちゃんにあんなことしたのだって、本当はただ、加瀬から沙耶ちゃんを奪いたかっただけだから… やり方間違えちゃったけどね」

結城さんが自嘲気味に笑った。

彼が嘘を言っているようにも見えず…
さすがにもう何も言えなくなってしまった。

「沙耶… もう行くぞ! あんたも二度と沙耶に近づくなよ! 沙耶になんかしたら俺が許さねーからな」

隼太くんが結城さんを睨みながら、立ち上がった時だった。

「あ… そうだ! 沙耶ちゃん! 思い出したよ… 雪乃のストーカー」

突然、結城さんが大きな声を上げたのだった。