「おい 沙耶 待てって! 彼氏の気持ち確かめなくていいのかよ!」

追いかけてきた隼太くんが声を荒げた。
私が途中で店を出てきてしまったからだ。

「もう、聞かなくても充分わかったからいいの」

私は歩きながらそう答えた。

「どう分かったんだよ?」

「そんなの、隼太くんだって分かるでしょ… 忘れられない元カノが、実は自分の為に身を引いてたんだよ? 彼女とやり直したいと思ったに決まってるじゃない! けど、私がいるからそれはできないって思ってる。彼は私を裏切れないんだよ。心はとっくに元カノのところにあるくせに…」

「沙耶…」

「でも大丈夫… 分かってすっきりしたし、これでちゃんと別れる決心もついたから。今度はね、私が思い切りフッてあげるの… 私に罪悪感なんか持てないくらい酷い振り方でね」

そう言って笑った瞬間、
ギュッと隼太くんに抱きしめられた。

「何これ…」

「胸かしてやってんだよ… そろそろ、おまえが泣く頃だと思って」

「いや、泣かないし、こういうの全然いらないよ… 離して」

「何だよ… 可愛くねーな」

隼太くんはちょっと拗ねたようにそう言うと、私をそっと放した。

「それにね、別れる前にやることがあるから…」

「え?」

「協力してくれないかな… 隼太くん」

私は隼太くんの顔を見つめ、そう言った。