彼の名は、鈴木隼太
私と彩の高校時代の同級生だ。

昔は茶髪にピアスで、かなりチャラチャラしたイメージだったけど、髪も黒くなり見た目は随分まともになっていた。


「ちょっと~ ビックリ 何年ぶり~?」

「あー 彩とは成人式の時以来か?」

私を挟んで会話が始まった。

彩とは中学も一緒だったようで、当時からこの二人は仲がいい…

「で、何… ひとりで飲んでるの?」

「ああ 言ってなかったっけ? この店さ、兄貴の店なんだよ… 俺はここの社員。たまにこうして客の会話を盗み聞きしながら、新メニュー考えたりしてんだよ」

「へえ~ 沙耶みたいなことしてるんだね~」

彩がそう言って笑った時だった。
カウンターに置かれた彩のスマホが、ブルルと音を立てた。

「あっ 社からメールだ。うわっ ごめん スクープだから戻ってこいって… 沙耶、悪いけど先に帰るね!」

「えっ あー じゃあ、私も」

「ううん、沙耶はゆっくりしていきなよ… そうだ、隼太さ、沙耶の話盗み聞きしたんだから、ちゃんと責任もって慰めてあげてよね! じゃあ、頼んだから」

彩はそう言って、バタバタと出て行ってしまった。

「え… 彩…」

「ハハッ 何だよ あいつは… まあ、いっか… 高本さん何か飲む?」

「えっ、あー じゃあ… マルガリータで…」

「じゃあ、俺も同じの」

こうして私は、さほど親しくもなかった昔のクラスメートと、お酒を一緒に飲むことになってしまった。


「で? さっきの話だけど、何で彼氏に言いたいことハッキリ言わない訳? ここでグチってたって何も解決しなくね?」

彼はどうもズバズバものを言う性格らしい…
本音で答えないと、返って突っ込まれそうな気がする。

「それはそうなんだけど… 好きな人の前でヤキモチとか本音とか、そういうの素直にさらけ出せない性格なんだよ… つい強がって平気なフリしちゃうし…」

「ふーん あんなに不満抱えてるくせに?」

「仕方ないでしょ… それに、今、下手に不満なんか言ったら、元カノの方へ行っちゃうかもしれないし… 向こうから別れを切り出されるまでは、私からは何も言わないつもり…」

だから、何も聞かないし、見なかったふりをしてるのだ。

「随分ストレスたまりそうな恋愛してるよな… まあ、今日は飲んで嫌なこと忘れちゃえよ。後で俺が特製オリジナルカクテル作ってやるからさ… まだ客には出したことないけどな…」

彼はそう言って笑った。

「えー 何か怖いからいらないよ」

「何だよ 俺、ちゃんとバーテンの資格だって持ってるんだぜ? ちゃんとおいしいの作ってやるよ」

「まあ、隼太くんがそこまでいうなら飲んであげても」

「隼太でいいよ」
 
すかさず彼がそう言った。

「あー いいよ 別にそこまで親しくないし…」

「おまえって結構ツンデレだよな… まあ、いいや 俺はおまえのこと沙耶って呼ぶから」

「えー 呼び捨て~?」
 
「嬉しいだろ?」

「全然…」

お酒が入っているせいか分からないけれど、何だか楽しく時間が過ぎていった。