「それ、本気で言ってんの?」

加瀬さんが雪乃さんを真っ直ぐに見つめた。

「うん 本気だよ」

「そっか… じゃあ、悪いけどハッキリ言うな? 雪乃とのことは俺の中ではとっくに終わってる。大事にしてる彼女もいるし、もう雪乃とヨリを戻すつもりはないよ」

加瀬さんがキッパリと言い切った。
ビックリするくらいストレートに…

「………そっ…か」

落胆した様子の雪乃さん…。
けれど、彼女はすぐに顔を上げてにっこり笑った。

「うん そうだよね。ごめんね 変なこと言って… 私も悠真のこと、ちゃんと過去にするから… あー でも、お店の方だけは、そのままお願いしてもいいかな?」

「いいよ 仕事だから…」

「ありがとう それじゃ、私、そろそろ戻るね」

雪乃さんは明るくそう言うと、足早に去って行った。

そこでようやく、私は安堵のため息をついた。
もの凄く怖かった。

こんなところで二人に愛でも誓われたら、きっと立ち直れなかったことだろう…

ホッと胸を撫で下ろしていると、突然、加瀬さんが振り向いた。

「沙耶? そこにいるんだろ?」

えっ…
バレてるの?!

加瀬さんはゆっくりと私の方へと歩いてきた。

「気づいてたんですね……」

私は観念して、立ち上がった。

「途中からだけどな…」

「すいませんでした… 加瀬さんを探しに来たら二人を見かけて…それで」

加瀬さんが私をギュッと抱きしめた。

「ごめんな 沙耶… 嫌な思いさせたよな 雪乃のこと」

「加瀬さん…」

私はプルプルと首を横に振った。

「加瀬さんがちゃんと断ってくれたから平気です」

そう…
もう不安なんて全部吹き飛んでしまった。

「でも、仕事で暫く一緒になるけど…」

「大丈夫です。私、何があっても加瀬さんを信じますから」

私が笑ってみせると、加瀬さんがボソッと呟いた。

「マズいな…」

「何がですか?」

「沙耶が可愛いこと言うから襲いたくなった」

クスッと加瀬さんが笑う。

「ダ、ダメですよ! 一応ここは神聖なるチャペルなんですから」

「キスならいいだろ?」

「ダメです… ここでしていいのは永遠の愛を誓うキスだけです…」

「なら、大丈夫だな」

「え?」

「沙耶… 愛してる」

そっと加瀬さんの唇が重なった。
祭壇の前で交わす甘いキス…

これは誓いのキスなんだって…
本気にしてもいいですか?

心の中で呟きながら、加瀬さんの背中にそっと手を回した。