加瀬さんと作り上げてきた『サクラガーデン』は、イメージ通りに完成されていた。

私が最後に来た時は、まだ内装も途中の状態だったけれど…

玄関ホールの高い吹き抜けの天井からは、豪華なシャンデリアが吊され、二階へと続く大きな階段には真っ赤なじゅうたんが敷かれていた。

そして、店内の至る所にアンティークな家具が飾られていて、パーティールームとして区切られた部屋には、ヨーロッパから取り寄せた立派なソファーとテーブルも運び込まれていた。

まるでどこかの宮殿のような空間だった。


「高本 こっち」

加瀬さんに腕を掴まれ、テラスから庭へと連れ出された。

「ほら」

「あ…」

目の前に広がる緑の中に、ガーデンチャペルが完成していた。

じわりと涙が浮かんできた。
このガーデンチャペルは、私がデザインしたものだから…

加瀬さんが新人である私の図案を、建築デザイナーと相談しながら、こうして形にしてくれたのだ。

「感想は?」

「えっと… なんていうか… 感無量です」

「そっか…」

フッと加瀬さんが、優しく私に微笑んだ瞬間…

「加瀬さん! 桜社長がお見えですよ!」

坂口さんがそう言って、加瀬さんの腕を引っ張っていった。

そう…
今日は坂口さんも一緒なのだ。
どうやら彼女は、今日私が来たことを快く思っていないらしい…

「あ どうも、桜社長!」

「おう 加瀬くん… すごいね 春樹から聞いていはいたけど驚いたよ…」 

目を輝かせながら入って来たのは、この『サクラガーデン』のオーナーである桜社長だ。

白髪混じりの彼は、ヨーロッパのアンティーク家具を専門とする会社の社長さんだ。

「あっ 今日は高本くんも来てくれたの? 嬉しいね」

桜社長は私に気づき、くしゃりと笑った。

「桜社長 お久しぶりです。いよいよオープンですね」

「ああ 加瀬くんと高本くんが頑張ってくれたおかげだよ… なあ、春樹」

「そうですね」

桜社長の横で頷いている春樹さんは、社長の息子さんで専務を務めている。

「そう言って頂けて光栄です。でも、まだまだこれからです… 必ず成功させてみせますから」

加瀬さんはにこりと笑うと、桜社長と秘書の女性を連れてお庭の中を歩き出した。

坂口さんも慌てて加瀬さんの隣にピタリとつけた。

私は春樹さんと一緒に少し後から歩いた。

「どうやら加瀬さんは、親父よりもあなたに見せるのを心待ちにしていたみたいですね」

春樹さんが私にコソッと呟いた。

「えっ?」

「先ほど、加瀬さんがあなたに、嬉しそうにチャペルを見せている姿をお見かけしたので…」

春樹さんはそう言って、クスリと笑う。

「あっ それは… ガーデンチャペルは私がデザインしたものなので…」

照れながらそう答えた。

「知ってますよ… 素敵なチャペルですよね」

「ありがとうございます。加瀬から、自分だったらどんなチャペルで式を挙げてみたいかを、イメージしながら描いてみろと言われまして…」

「そうですか 加瀬さんも隅に置けませんね」

「え?」

「いえいえ こちらの話しです…」

春樹さんは加瀬さんの方を見なながら、なぜか意味ありげな笑みを浮かべていた。