「どうして、加瀬とそんなことになったの?」
営業車を走らせながら、結城さんがため息をついた。
「だから、違いますって… あれは加瀬さんがふざけて言っただけですから… もういい加減にして下さい!」
先週の加瀬さんの発言のせいで、今日は朝からずっとこんな会話が続いている。
「じゃあ、その首筋のキスマークは誰につけられたの?」
「えっ…」
結城さんの言葉にギョッとして、慌てて首に手を当てた。
「どうせ、あいつのことだから、わざと運転席から見えるようにつけたんだろうけど」
私はバックからコンパクトミラーを出して、右の首筋を確かめた。
「ホントだ… やだ、何で加瀬さんこんなとこに… あ」
思わず口が滑ってしまった。
「じゃあ、説明してもらおうかな」
結城さんの言葉に観念して、私は加瀬さんとの関係を全て打ち明けた。
「バカだね 俺があんなに忠告したのに… 俺の知ってる加瀬は女の敵だって」
「……分かってます」
「そもそも、沙耶ちゃんは、あいつと体だけの関係なんて続けられるの?」
「…それは」
「まあ、あいつも飽きっぽいからね、どうせすぐに捨てられると思うけど… 他にも目移りするだろうし…」
「そんなの… 分かっ…て…ますよ 私だって」
ずっと我慢していた涙がこぼれ落ちた。
すると、結城さんはハンドルを切って、空き地の脇に車を止めた。
「ごめん 沙耶ちゃん… ちょっと言い過ぎたね」
「いえ… 本当のことですから」
加瀬さんにとっての私は、ただのセフレのひとり…
それに、あんなに近くに坂口さんだっている。
今日だって、きっと坂口さんと…
そんなことを考えたら、涙が止まらなくなった。
「ねえ 沙耶ちゃん 俺じゃダメかな 俺なら沙耶ちゃんのこと大事にするよ?」
「え…」
「俺ね、前の部にいた時から、沙耶ちゃんが加瀬のこと見てるの知ってたんだよね。加瀬の前では気持ち隠して強がってる感じで、不器用な子だなってさ… でも、そんな沙耶ちゃんをいつか俺の方に振り向かせたいなって思ってた…」
「結城さん…」
真剣な結城さんの表情を見て、これは冗談なんかじゃないと、さすがに気づいた。
「ごめんなさい 結城さん 私は…」
「分かってるよ 今は加瀬のことしか考えられないよね? 俺だって今すぐ返事が欲しい訳じゃないから… たださ、ひとりでこんなに苦しんでる沙耶ちゃんを、ほっとけないんだよ。せめて泣く時くらい、俺の胸で泣いてよ」
結城さんはそう言って、私を抱きしめてきた。
「結城さん…」
ギュッと結城さんの温もりが伝わってきた。
「思い切り泣いて、全部吐き出しちゃいなよ」
私は結城さんの腕の中で、加瀬さんを想って泣いていた。