月曜の朝…
会社のトイレで坂口さんと一緒になった。

「おはようございます」

「あ おはよう…」

最近、彼女は私の前で猫をかぶらなくなった。
と言うより、敵意を向けられていると言った方が正しいかもしれない。

「今日は取引先との打ち合わせの後、飲みなんですよね」

リップを塗りながら、坂口さんが言った。

「そっか… あんまり飲みすぎないようにね」

「そうですね 気をつけます。前回はあんなことになっちゃったから…」

「あんなこと?」

思わず聞き返して、彼女の顔を見た。
そう言えば、前にも、加瀬さんと何かあるような言い方をしてきたっけ…

結局、そのままにしてしまったけど、きっと何かを私に言いたいのだろう。

「気になります?」

坂口さんはフフっと笑って、ジャケットから携帯を取り出した。

「こういうことです」

彼女がそう言って見せてきたのは、上半身裸のまま眠っている加瀬さんの写真だった。

「え!」

驚く私に、坂口さんはクスっと笑ってこう言った。

「起きたら私の部屋に、加瀬さんが泊まってたんですよね」

可愛いクッションが映り込んでいるから、きっと、彼女の部屋で間違いないのだろう。

「もしかして… 加瀬さんと?」

恐る恐る彼女の顔を見た。

「シたかって事ですか? まあ、そうですね 私も裸でしたし、シたんじゃないでしょうか… あっ このこと皆には内緒にしておいて下さいね。」

そう言って携帯をしまうと、坂口さんは満足そうな顔で去って行った。

私はあまりのショックに、暫くその場から動けなかった。

あんな写真を見てしまったから、さすがにダメージが大きかった。

坂口さんにも、手を出していたなんて…

もう、嫌だ…
何で私は、加瀬さんなんか好きになってしまったんだろう

こんなに苦しい思いをするなら、初めから好きにならなければ良かった。

でも、もう遅い…
私は引き返せないところまで来てしまったのだ。

こみ上げてくる涙を堪えながら、私は大きく深呼吸した。