向かった先は、加瀬さんのマンションだった。

「お邪魔…します」

パタンとドアが閉まると、加瀬さんが私を壁に押さえつけて、いきなり唇を塞いできた。

「ん… んっ か…せ さん」

こんなに性急に求められるのは、私がセフレだからなのだろうか…

「んっ あ…」

加瀬さんの激しいキスに、呼吸が一気に苦しくなった。
唇を吸い上げられ、舌を絡め取られ…
頭の中が真っ白になる。

次第に体中が熱くなり、全身が疼いていった。
とうとう私が崩れ落ちると、加瀬さんがハッとして私を抱きとめた。

「ごめん ちゃんとベッドいこうな」

加瀬さんは耳元で呟くと、私を抱き上げて寝室のベッドへと運んでくれた。

でも、私にはここまでが限界だった。

「加瀬さん 待って下さい」

ネクタイを緩めながら、私に覆い被さってくる加瀬さんに思わず私は声を上げた。

覚悟は決めたつもりだったけど…
やっぱり、無理だ
だって、私は…

「ごめんなさい… 私… 初めてなんです…」

「え…」

加瀬さんは驚いた顔で私を見下ろしていた。

そうだよね…
割り切った関係を求める加瀬さんに、処女は重すぎる。

私には初めから、加瀬さんの相手なんて無理だったのだ。

「もう 慰めてくれなくていいですから… 加瀬さんも他の相手を探して下さい。」

ベッドの隅に丸まって、私は小さな声でそう言った。

「そっか… 処女だったか」

加瀬さんはそう呟くと、私を後ろから抱きしめてきた。

「加瀬さん…」

「ごめんな つい沙耶が可愛いくて止められなかった。ちゃんと優しく抱くから、こっち向いて」

甘く掠れた声でそう言われ、私は加瀬さんの方に顔を向けた。

「沙耶…」

加瀬さんはそう呟くと、そっと唇を重ねてきた

その後は、夢中で加瀬さんに身を委ねた。

加瀬さんは何度も私の名を呼び、愛しそうに抱いてくれた。

愛のないセックスの筈なのに、私の心は十分満たされていた。

痛みさえも、嬉しくて…
私は初めて、女の悦びを知った。

「沙耶… 体キツイだろ? 明日はちょうど休みだし、このまま泊まっていけば?」

その言葉で、ふと現実へと引き戻された。

私だって、朝までこうして加瀬さんの腕の中にいたい。
けれど、きっと加瀬さんはそれを望んではいないだろう。
私とは体だけの、割り切った関係なのだから…

「いえ 大丈夫です。シャワーだけ貸して下さい。」

にこりと笑顔を見せて、私は服を手に取った。