Even if ...【短編小説】

記憶というのは実に曖昧だ。

特に時間の経って劣化したものは。

自分の都合のいいように記憶は操作される。


現に、八嶋先生のことが好きだったという事実すら記憶の片隅に追いやられて、
容易に思い出せないほどになってしまった。



「やっと思い出しました。よく先生覚えてましたね。」

「記憶ってする人よりもされた人の方が覚えてるもんだからな。」



確かに、恋人に関してもフった記憶よりもフられた記憶の方が残っている。



「結局フって正解だったのかな。田代さんを幸せにするには。」



遠い目をしながら先生は呟く。

いつの間にか飲みかけのグラスが先生の元に戻ってる。

さっきより落ち着いている様子だからいいとするか。