伊織君はけらけらと笑いながら、片足で壁伝いに洗面所へと向かっていく。私は彼の布団の隣に積み上げてある洗濯済みの服や下着が入った紙袋を二つほど持って、洗面所の中へ突っ込んだ。

「ありがと。あとは自力で何とか脱ぐよ」

 まだ若干赤面していた私は返事をせずにドアを閉める。中から伊織君の、明るい笑い声が聞こえていた。

 ・・・何てやつだ、もう!

 私は一人でぷりぷりしながら、台所の掃除を始める。流し台を元通りにして、床に散らばった髪の毛を集めて捨てる。テーブルを拭いて、ついでだから家中のゴミを集めて庭に出した。

 片っ端から片付けていきながら、実は私はドキドキしていたのだ。

 さっき髪を切っていた時から。

 だって伊織君の首筋が思ったより太かったから。半年に一回ほどのペースで綾の長い髪を揃えていたけれど、綾にはない男の子の特徴が、私を動揺させた。彼の綺麗で温かい肌に指が触れるたび、思わず鋏がはねそうになって困ったものだった。

 えらく集中力が必要だった。私ったら・・・もう!

 伊織君の布団も退けて掃除機をかけ、一階が綺麗になったと満足するころ、彼が出てきた。

 また髪の毛が濡れていたけれど、にこにこと機嫌が良さそうだ。

「スッキリしたー?」

 私がそう聞くと、伊織君はうんと頷く。

「お陰さまで、何か生き返った気分。足もそんなに痛くなかったよ。まだ腫れてるけどねー」

「良かったね」