鋏をシンクに置いて手でざざっと髪を落とす。それからドライヤーを持ってきて、全体を乾かした。後ろはくくれないくらいの短さではあるが、そんなに刈り込んでいない。結構自然なショートに出来たはずだ。耳は出して、前髪も目にかからないくらいで揃えて流す。

「じゃーん。どうかなー?」

 私の卓上鏡を持ってきて伊織君に渡す。彼は感心したように唸った。

「・・・おお。凄い。何かマトモな男がここにいる」

「あははは。こんなの嫌だー!とか、ない?今ならまだ更に短くはなるけど訂正もきくよ~」

 私がそう言うと、いやいや、素晴らしい出来ですよ、と返ってきてホッとした。

「前はちょっと疲れたり汚れたら髪型のせいで浮浪者みたいになったけど、これなら先生にも叱られない」

「あら叱られてたの?」

 うん、と伊織君は頷く。まだ鏡をじっと見ていた。

「髪の毛背中とかに入ってる?気持ち悪いでしょう。シャワー浴びてくる?体も洗いたいんじゃない?」

「じゃあそうしようかな。だけどさすがにそれを手伝って、とは言えない。真っ裸になるからねえ」

 つい、想像してしまった。一瞬詰まってしまった私を見て、伊織君が片足で立ち上がりながらニヤニヤと笑う。

「おや想像した?凪子さんたらやらしい!」

「そそそっ・・・そんな、今のは仕方ないでしょー!自分で言っておいて何よー!」

「いつでも言って。俺の体でいいならいつでも見せるから。触ってもいいよ、凪子さんなら」

「結構です~っ!もう、早く行きなさい!」