「どうしよう?2週間くらいなら一階で寝る?」
私は困って、伊織君を見る。台所は食事をするテーブルや椅子、テレビなどがあってそんな余裕はないが、玄関入ってすぐのところ、居間としてつかっているここは、ソファーなどを退ければ布団を敷くスペースくらいは作れそうだ。
うーん、と伊織君も眉間に皺をよせて悩んでいたけれど、腫れと痛みが引くまではそうしよう、ということになった。何せ古い一軒家で、健常者でも大変な急階段なのだ。右足を使えないままであれを上るのはキツイに違いないし、上がるのはともかく降りるとなれば、もう落ちた方が早いんじゃない?ってほどである。
ごめんねーと謝る伊織君にはいはいと言いながら、私はここへ引っ越す時に友人から譲り受けた古い2人用ソファーも綾が持ってきた一人用ソファーも壁際に運んでテレビ台などをずらせるだけずらし、二階の自室の押入れから客用の布団を一組下ろす(階段の上から落としたのでこれは楽だった)。そして伊織君のベッドからシーツやら枕やらを持ってきて、即席で寝る場所を作る。
「布団がシングルで小さいと思うけど、しばらく我慢してね」
私がそう言うと寝転がってみた伊織君が、手を顔の前で振った。
「贅沢はいいません。足を伸ばして眠れるだけ幸せだよ」
捻挫したほうの足は上げておいたほうがいいから、というので、タオルを重ねて彼の両足の下にしく。
さて、寝ようかって話になってから1時間近くかかって、ようやくここまで来たのだ。既に時刻は12時過ぎ。私は予定外の肉体労働に疲れ切って、やれやれと床に座り込んだ。



