「仕事、しばらく行けないんじゃないの?仕方ないけど大丈夫なの?」
重度というわけではないが、軽度でもないらしい右足を見て私は言う。伊織君は情けないような顔になったけど、意外とさばさばと言った。
「不幸中の幸いというか、今はそんなに忙しくないんだよね。受けていた依頼も先生や鷲尾の予定を調節してもらったら断らなくても大丈夫らしいんだ。だから、俺は自宅安静でじっとしてなきゃならない。普通に歩けないにしても立つことすら自力で出来ない間は、スタジオにいっても役立たずだしねー」
「ふんふん」
私は彼の前で別のソファーに座りながら、食べつつ頷く。
「だからまあ、神様から思いも寄らぬ休暇を貰ったって思うことにしておくよ。あんまりここには居ないからって凪子さんに言ったのに、まさか3ヶ月目でこうなると思ってなかったから、それが申し訳ないんだけど」
「ん?」
あ、そうか。私はようやくそのことを理解した。そうだ、伊織君が自宅で安静ってことは、普段はずっと出っ放しの彼がここにいるってことなんだ!
いつ帰宅したのかも判らない、そしていつ出て行ったのかも判らない、とにかく彼はいつでも家にいなかったか、居ても寝ていてすれ違いか、だった。起きたら一階が暖房で温められていたりコーヒーを飲んだあとがあったりして、あ、帰ってきてたんだな、とは判るものの、本当に顔を合わせることが少ない同居人だった。
だから私も気楽~に今まで通り、パジャマでウロウロしたり、テレビを見ながらパックをしたりしていたのだけれど・・・。あらー・・・これからは、成人男性がいつでも家にいるってことか!



