伊織君は巨大な芋虫のように這いずりながら居間へと入って行った。笑うところじゃないのにちょっと笑えてしまって困った。彼は痛みと戦いつつなんだろうけれど、大の男がこんなことをしている風景はそんなに見られるものじゃない。

 私は後ろからじいっと見ながら考える。うーん、もそもそ動くあの背中に上から乗っかってみたら、一体どんな反応をするだろうか!・・・まあきっと、絶叫あげるよね。そのまま動かなくなっちゃうかも。ダメかやっぱり、イジメだよね、それって。

 つい口から漏れそうになる笑いを噛み殺して伊織君のあとをついていく。すると、居間に置いてある小さなテーブルのところで力尽きたのか、伊織君が腹ばいのままでじっとしている。

「どうしたー?もしかしてテーブルで頭でも打ったの?」

 私が覗きこむと、伊織君は床に置きっぱなしにしていた綾からのポストカードを読んでいた。

「あ、それ今日来てたの」

「・・・インドにいるんだな」

「そうね。彼氏と一緒なんだろうしね」

「・・・これ、警察に言う?」

 伊織君が床に這い蹲ったままで私を振り返る。私はちょっと考えて、首を振った。

「伝えたほうがいいのかもだけど、言わなくていいかなー・・・。帰ってくるって言ってるし、まあ今のところは君が私にお金を返してくれてるし、そういう意味では問題がないから。綾が元気だってわかれば、とりあえず、いいの。でも店には居なきゃダメかも。あの人達売り上げ持ち逃げしてるわけだし」