「もうここまででいいよ、三上、ありがとう」
「いえ、私、手伝いますよ。着替えとか大変だし。水谷さんの部屋までお連れして――――――」
「いや、そこまではいい。ここは俺だけの家じゃないし。ごめんね、色々面倒かけて。で、面倒ついでに申し訳ないんだけど、暗室もそのまま放置してしまってるんだ。スタジオの方を頼める?」
伊織君は座ったままで、彼女ににこりと笑いかける。三上さんというらしいアシスタントはしばらく不満そうに口を閉じていたけれど、その内頷いた。
「・・・判りましたー。じゃあ、絶対安静にしてくださいよ、水谷さん」
「はいはーい。先生には後で電話するけど、会ったら宜しく伝えてね」
「了解です」
「駅までの道判る?道が暗いから気をつけるんだよー」
大丈夫です、と彼女は言って、私をちらっと見て御辞儀のようなものをぱぱっとしてから出て行った。
・・・うーん、愛想がない。私ったらさようならを言う暇もなかったぜ。
私はとりあえず彼の鞄を居間に押し込んで、伊織君の所へ戻る。
「大丈夫?伊織君。肩貸そうか?」
アシスタントの彼女と違って私はそんなに背が高くないから、きっとあまり役には立たないだろうけど・・・。そう思いながら言うと、伊織君はいやいやと首を振る。
「家に戻ればこっちのものだよ。折りよくこの一階はたたきを上がればワンフロアーだし、這いずっていくから大丈夫」
実際そうするのが一番いいのかも、と私も思ったので、たたきを降りて狭い中で彼の靴を脱がせる。
「ありがと、凪子さん。よし、いくぞ」
「頑張って~!」



