言いながら、私はタクの運ちゃんが開けてくれたトランクから、彼のものと思われる旅行鞄や紙袋、カメラケースを取り出す。・・・お、重いな、これ。ずっしりと肩に食い込む鞄や紙袋を両手にもって、ヨロヨロと路地へと回る。

「いやー、仕事中に床で滑って、バランス崩しちゃって――――――」

「水谷さんは捻挫されたんですよ。病院での処置は済んでますから、後は自宅安静です」

 学生さんが、伊織君の言葉を遮って私にむかってぴしゃりと言った。私は一瞬呆気に取られたけれど、ああそうですか、と心の中で返す。この女の子、美人なのに愛想がないのは相変わらず・・・。ちょっと勿体無いと思うよ、あなた。

 伊織君は学生アシスタントさんに体を支えて貰いながら、ゆっくりと歩き出す。

 私はタクの運ちゃんにお礼を言って、見送ってからその後に続いた。

 暗い夜の中、前を行く二人の、白っぽいコートがぼんやりと浮かび上がっている。吐く息も白く、曇った空へとあがっては消えていく。たま~に前から伊織君の唸り声が聞こえてきた。きっとかなり痛いのだろう。

 重い荷物のせいで厳しい5分ほどを歩いたあと、ようやく家についた。

「たたき、段差がきついから気をつけてね」

 そう言いながらドアを開けて、彼らを通す。伊織君は大きく息を吐き出しながらたたきの上にドスンと座った。見ると顔は険しい表情だし、汗もかいているようだ。よっぽどきつかったのだろう。

 学生アシスタントさんが靴を脱いで上がろうとすると、伊織君が、あ、と手で止めた。