そうならなくて良かった。

 もう一回弘平とやりなおしてみたって、きっと多分いきつく先は同じような結果だろう。そう思えるほどに、私は回復していたのだった。

 あんなことはもう嫌だ。

 自分を圧し殺して、相手の望みだけを必死で叶えるような恋は。

 偶然だったけど、伊織君のお陰でそうならずに済んだ。

 台所にある小さな丸いテーブル、その上に、手紙と一緒に置いておく。

『伊織君へ。これからは、これを使ってくれると嬉しく思うのですぞ。 凪子』

 買ってきた大きめのマグカップは白い陶器で、全面に英語でバーンと書いてあるのだ。

 PLEASE STOP ME, IF I DRINK COFFEE TOO MUCH!!(飲みすぎたら止めてね!!)

 うんうん、任せて。一緒にいる時は、ちゃーんと止めるからね。

 テーブルの上にセットしたそれを見て、私は一人で笑っていた。