「綾は・・・居ないの。じゃあどうぞ」
言いながら鞄から鍵を取り出して、上も下も開ける。
「えらく鍵を頑丈にしたんだなー。まあ防犯面ではそのほうがいいよな。ちょっと物騒だって前から思ってたんだよ、この家」
弘平がそう言いながら玄関へ入る。私はヒールを脱いで台所にいき、エアコンをつけてから冷蔵庫からミネラルウォーターを出してコップに注いだ。
台所の電気はいつもつけっぱなしでいくのだ。その他は真っ暗で、部屋は冷え切っている。どうやら伊織君はいないらしい。
「はい」
「あ、サンキュ」
弘平は前に立ち、そのままでゴクゴクと飲む。言い飲みっぷりだ。本当に喉が渇いていたらしい。
「もう一杯いる?」
「うん、頼む」
そう言って彼がコップを渡す。それをシンクに置いて、私はもう一度冷蔵庫を開けようとして、そのままで凝固した。
急に後ろから回ってきた大きな手が、私を抱きしめたからだ。
――――――――え。
弘平はぎゅうっと私を後ろから包み込んで、息を大きく吸う。彼の口元が私の耳の側にあって、その感触に思わず体が震えた。
「う、わっ・・・わあ!?」
「あー、やっぱりいいかも。ナギの香りだ」
「え・・・ちょっとちょっと!?」
慌てた私が離れようと体に力をこめると、弘平も力をいれて抱きしめてくる。
うっきゃああああああ~っ!!!



