いつも自信たっぷりで上昇意欲が強く、上の世界ばかりをみているような人だった。
仕事の事でなかったら滅多に自分の非は認めない。そんな強い態度で生きてきただろう弘平が。
謝った。
私に!
気が済んだのか、弘平は前に向き直る。私はまだ固まったままで、窓の外を景色が流れていくのを呆然と見詰めていた。
・・・ごめん、だって。
『申し訳ないけど、お前といると退屈。金銭感覚とか価値観とかもちょっと違うし、もう会うのやめよう。お互いもっと合う人がいると思う』
そう言って、一方的に去って行った彼。
まさか、その時の事を謝られる日がくるとは。
ドキドキと心臓がうるさい。弘平に聞こえたら嫌だから、私はゆっくりと深呼吸をする。
「・・・えっと、うん」
小さかったけれど声を出した。隣で彼がこちらを見る気配。
「私は大丈夫。だから、もう気にしないで」
とにかくそう言った。胸が一杯で、これ以上はとても。今はともかく、綾に会って話したかった。ねえねえ聞いてって。何と弘平がね、謝ってくれたんだよ!って。きっと彼女は飛び上がって驚いて、アルコールの準備をするはずだ。ちゃんとおやつも準備しよう、凪、今夜は徹夜で話そう、そう言って―――――――――
タクシーが止まってハッとした。
財布を捜してワタワタしていたら、弘平がさっさと払ってしまった。そして一緒に降りてくる。
「え?帰らないの?」
「いや勿論帰るけど。ここの路地細くて長い上に暗いだろ?もう最後まで送っていくよ。タクはまた呼べばいいし」



