「ナギ」

「・・・」

「おーい、ナギってば」

「何ですか」

 疑問視をつけずに言ってやった。話す気はありませんって態度で。だけどめげずに、弘平は、ははっと小さく笑い声を上げた。

「そんなツンツンすんなよ。俺さ、謝りたかったんだよ、別れたときのこと」

 ・・・ん?

 私は思わず横目で彼を見る。・・・謝る?謝るだって?嘘でしょ、いつでも俺様で余裕たっぷり、世界は自分中心にまわってるって思っていた弘平が、私に謝る?

「え、どうしたの?子供じゃないんだから、性格ってそんなに変わらないと思うけど」

 私が思わずそういうと、おお、と弘平が呟いた。

「きっついなあ~・・・。それって俺の性格が悪いって意味?直球で、そういうところは相変わらずだな。まあ前はもうちょっと優しい言い方だったと思うけど」

 私は黙って前を向いた。

 そりゃあベタ惚れしていた時とは違う。あなたには私は散々傷つけられて振り回され、大変だったのだ。最高の幸福と最低の気分、そんな状態が交互におとずれるような付き合いだったのだ。凄く幸せだと感じた次の瞬間には、地獄の底へ突き落とされるような。彼の表情や言葉にいつも一喜一憂していた。

 別れたことは、正解だったと今では思っている。

 だけど、そう思えるまでには辛い日々がいくつも必要だったし、それに綾がいてくれたから乗り切れて、そう思えるようになったのだ。