よし、ここに来た目的は完達した。私は津田さんと弘平に頭を下げて、入口へと向かう。すると後ろから柔らかく腕を掴まれた。
「待って、ナギ。送るから」
「へ?」
何だって?キョトンとしていると、弘平も津田さんに挨拶をして頭を下げ、私の腕を持ったままで歩き出した。
「ええ?いやいや、大丈夫ですよ、私酔ってないからー」
「うん、でも人には酔ったって言ってただろ?ちょっと顔色もよくないし。どうせ方向同じだし、タク拾うから来いよ」
そう言って、弘平は懐かしい強引さで私を店から連れ出した。
いえいえ、送ってもらわなくてほんといいです~!と私が叫びだす前に、弘平はタクシーを捕まえてしまう。わたわたしている内に車内へと放り込まれて、彼は運転手さんに行き先を告げていた。
「引越しとかした?」
「へ?あ、ううん。まだ・・・あそこに住んでる」
動き出したタクシーの中で、私は出来るだけ窓際に引っ付いて弘平と距離をあけながら、しまった~!と思っていた。
もう少しアルコールいれときゃよかった~・・・。ほとんど素面の状態で、どうして良い別れ方をしなかった元彼と一緒にタクシーに乗らなければならないのだ!くそ。
相変わらずの強引さで。もう既にタクシーの中。だから、こっそりとため息をついて早々に諦めた。20分くらいだろうし、黙っておこう、そう思って。
だけど弘平は黙って20分の乗車をするつもりはなかったらしい。窓枠に片肘をおいて手で頭を抑えながら、彼がこっちを見たのが判った。



