「加納、有難う。聞いた話だと、加納は去年会社辞めたんだって?どうりで見ないなーと思ってたんだよ。辞めて、今は何してるんだ?」

 津田さんがそう言ったから、私はえ?と隣の彼を見る。会社辞めたって?それってマジで?

 弘平はあははは~と楽しげに笑って頷いた。

「そうなんですよ。もう営業は十分やったかな、と思って。会社にいる間にえらく鍛えられましたし、もう他のことしようかなと思って辞めたんですが、特に何かしてるわけじゃなくて。最近は株とか投資や不動産をみてます」

「へえ・・・。まあ、加納は器用だし、何でも出来ると思うけど」

 津田さんはそう言ってから、人差し指でぱっぱと私達を交互に指差した。

「君達って、まだ・・・?」

「あ、結構前に別れました。ここで久しぶりに会いまして」

 私が即答する。保険会社を出てから破局したので、津田さんは知らなかったのだろう。保険会社は社内恋愛がえらく多い上に特に禁止されてなかったので、社内の人間はお互いの交友関係の情報を結構知っているのだ。

「そうだったのか」

 津田さんが意味ありげにちらりと弘平を見た。それから、私も。その目は、それで正解だよといっているように思えたけれど、それは私のただの願望かもしれない。そう思いたいだけだったのかもしれない。

「今日は失礼しますね。津田さん、頑張って下さい~!お仕事のお誘いでしたらいつでも歓迎ですので一声下さいませ」

 私がそう言うと、津田さんは優しい顔で頷いてくれる。

「有難う。塚村さんも、色々あるだろうけど、頑張ってね」

「はい!」