「うん判ったー。大丈夫、私持っていけるよ。何時までなら間に合う?」

『うわー、本当助かる。ええと、プレゼンは5時からだから、それまでならいつでも!』

 伊織君はホッとしたようにそう言って、またごめんねと謝る。私は大丈夫だよと何回もいいながら、電話を持ったままで彼の部屋へ移動する。

「じゃあ部屋に入るよ?」

『うん。ちゃぶ台の上に置いてるはずなんで』

 綾の私物を片付けた時以来、初めて入る伊織君の部屋はスッキリと片付いている。服や小物が床中に散らばっている私の部屋とはえらい違いだ、と若干反省した。黒と茶を基調にして物を選んでいるようで、和室なのにクールで、しかも落ち着く雰囲気に出来上がっていた。

 視線を動かして部屋の隅に置いてあったちゃぶ台を見ると、その上には確かにそれらしきものがある。

「はいはい、これね。6ページほどで透明ファイルに挟んであるやつよね?」

『そう、それですー!』

「お昼食べたら持って行くね。2時までには着くようにします」

 そう言うと、彼は大きな声でありがとー!と叫んで電話を切った。

 ・・・うん。声が低いと、大声で叫ばれても頭は痛くならないらしい。

「さて」

 完全に目が覚めてしまった私は、起きることにして自分の部屋に戻る。

 予定がなかった今日、おつかいの予定が出来た。だからそれまでは――――――・・・

「・・・掃除でも、しましょうか」

 出てきたばかりの片付いた部屋と目の前に広がる混沌とした自分の部屋をつい比べて、私は大きなため息をついた。