私は丸まっていたソファーから身を起こして聞く。

「会社に雇われてるってこと?じゃあスタジオは、君のものじゃない?」

 伊織君は寛いで壁に背をあずけ、いやいやと首を振る。

「違いますよー。俺は阿相哲史っていうカメラマンの助手としてこの世界に入って、今は立場が上がってスタジオ阿相に雇われているカメラマンの一人。アシスタントから上がった似た様なのがあと一人いて。先生は売れっ子だから仕事は色々貰えて、先生がやらない他の仕事を俺ともう一人のカメラマンがやってるんです。まあ、誰が撮ってもいいっていうような仕事を」

 阿相哲史・・・?聞いたことあるな。私はじっと考えて、それから、あ!と手を打つ。

「知ってるー!知ってるよその写真家さん。雑誌によく載ってるよね?ファッション誌とか!」

「ブランド広告とかよく撮ってるからね、凪子さんも知ってるんだねー」

 そりゃ有名な人だ!私はつい拍手をする。その写真家のアシスタントからプロになれたってことは、伊織君てば結構凄いんじゃないだろうか。

「凄いじゃない?だってその人のスタジオのカメラマンなんだよね?まだ20代で!!おおー!」

 私がそう言うと、彼はちょっと照れたような顔をしてワインのお代わりを注いだ。

「いや、アシスタントみたいなもんだよ、今でも。雑用は学生アシスタントがしてくれるようになったけど、彼らがいない時は勿論俺達がするし。時間があるなら先生の仕事についていきたいね。やっぱり好きだからねー」