「お金にかえれるものは変えて、ちょっとでも凪子さんに返すよ。姉弟で借金したようなもんだからねえ。それが返済できるまで、ここで一緒に住まないといけないわけだし」

 ・・・そうか、まあ、そうなるか。

 私はしぶしぶ頷いた。102万円分の私の分の家賃を支払うまでは一緒に住もう、そういう話になっていたのだった。純粋に家賃だけの立替とするとそれは結構な長期間になりそうなので、現金になるものはして返したいのだろう。

 現在私は29歳、そして伊織君は28歳。私は今のところ予定はないが、彼は結婚を考えている彼女がいるかもしれない(この状況を考えたらそれはないと思われるけど)。そうでなくてもある日突然、環境がガラッと変わることだってあり得るのだ。・・・ま、今回みたいに。

 本人の許可なく勝手に私物を処分することには抵抗があるが、彼は綾の唯一の家族であり、こうなってしまった以上弟君にはそうする権利があると言えなくもない・・・。

 そこで私は気になっていたことを思い出した。

「あ、そうだ。伊織君は今日は仕事は?土曜日だから、私は今日明日休みだけど」

 部屋の中に入って周囲を見回していた彼は、ヒョイと振り返った。

「あ、俺はあと4日ほど日本にいます。そのあとマレーシアに行くけど、しばらくはスタジオ作業なんで。だからその間にここを片付けるね」

「ええと・・・はい、了解です」

 手伝うかどうかで悩んで入口でぐずぐずしていたら、伊織君が髪の毛をゴムで縛りながら私を見た。

「もし良かったら、手伝って貰えないかな?ここ数年の姉貴の生活を俺は知らないし、やっぱり大事にしてたものは残しておきたいから」