多分、なくなっていたのは服が少々と化粧品くらいなものじゃないかな。彼女の好きな明るいトーンでまとめられた外国の雑貨が多い部屋は、主が不在なのだとは思えないくらいにいつもの通りだった。きちんと整えられたベッド。色とりどりのショール。房がたくさんついたクッションや、象が描かれたイラスト、ポスター、木製の大小様々な籠、本やCD。ほとんどのものが静かにそこにあった。

 お金を持ち逃げされたとはいえ、他人なんだしと一応敬意を払って何も手をつけなかったそこに、私は弟君を招き入れる。

「綾、ほとんど何も持っていかなかったみたい。大きめの鞄と服類がちょっとくらいしか、なくなってないと思うの」

「・・・うーん。夜にも帰ってきそうな感じだね、これだったら」

 二人はしばらく、その部屋の狭い入口で腕を組んで突っ立っていたけれど、やがてため息をついて彼が頷いた。

「でも、ここはもう俺の部屋になるわけだし。姉貴の荷物は適当にまとめるよ。売れそうなものは売ってしまうし、多分半分くらいは捨てないと」

「え、売っちゃうの?」

 私がパッと彼を見ると、自然な感じで肩を竦める。

「だって姉貴が蒸発したせいでこうなったわけだしねえ。凪子さんだって迷惑したでしょう。結果的にはまだ判らないけれど、とにかく俺だって巻き込まれたわけで。ずっと連絡もなかったのにいきなり電話してきて、友達のお金持って出てきたの、あと宜しく、なんて」

「う、うーん、そうだけど・・・」