あら、と目を丸くする綾に椅子から立って近づいて、伊織君は彼女の手からお金の包みをもぎ取った。
「だからこれは俺のもの!それに、謝罪も要求するぞ。結果的に凪子さんと結婚して幸せだけど、大変だったんだからな!もうそれは、色々と!」
綾は私を見た。
私は簡潔に頷いてみせる。
伊織君が言ったのは本当のことだし、それにやっぱり多分、一番大変だったのは彼だっただろうと思うから。
仕事が立て込んでいる時に自分の住まいを移して、ここの整理整頓をし、私に気を遣って家には出来るだけ戻らず、家主には威嚇され、私を好きになってしまった後には手を出せないからと悶々して。
それってすっごーく大変だよね、と思うのだ。
「綾、本当に伊織君はたくさん頑張ってくれたの。それは全部あんたのせいで、傷付いた私の為。だからちゃんと謝らなきゃ。弟だってだけでこれほど頑張る義務はないんだからさ」
私がそう言うと、伊織君は両腕を組んでその通り!と大きく頷く。
綾は唇を尖らせてちょっと嫌そうな顔をしたけれど、うん、といって、弟に向かって深深と頭を下げた。
「悪かったわ、本当に。迷惑かけてごめんなさい」
伊織君はちょっと眉間を緩めて、もごもごと口の中で言う。
「・・・あ、うん」
「それに私の変わりに凪にお金を返済してくれて、ありがとう」
「うん」
「それに、凪を幸せにしてくれて、ありがとう」
綾~っ!と私はついに我慢できず、彼女に抱きついた。



