「凪の鞄はインドにいる間に破けちゃったの。それもごめんね。でも、これ、お金だよ。きっちり102万円。遅くなっちゃったけど、ようやく返せる」
彼女はそっと私にそれを差し出した。
私はまだ無言でそれを見詰める。
・・・102万円。私の、貯金の・・・。
10万づつまとめてゴムで止めていた時は、もっと多く感じられたものだった。だけど、その小さな山はびっくりするほどで、私はいつまでも動けずにそれを見てしまう。
・・・助かった、って綾は言った。
これで、色々なことが。
「・・・もういいの」
気がついたら、まだお金を凝視したままで私はそう言っていた。
顔を上げたら綾と目があった。
「あのね、伊織君に・・・返済もしてもらったし。今の私には、必要ない、かも」
うまく言えないけれど。胸が一杯で。
綾が私をじっと見ている。その時、食卓から伊織君が言った。
「それは俺に返して貰わないと。姉貴がしでかした尻拭いは、俺が全部したんだから」
え?と二人で振り返った。
「あんたに?」
綾が嫌そうに顔を顰める。それを見て、伊織君は怒りが再発したようだった。眉間にきつく皺を寄せて、イライラと指でテーブルを叩く。
「姉貴が人様の金持ち逃げして俺に電話したんだろっ!凪を宜しくなんて、判ってんだよ、信託の金をあてにしたってこと!だけど俺だって今年になるまで手はつけられない、だけど凪子さんには申し訳ない。だから毎月毎月家賃を負担することで、返済したのっ!」



