来月の支払いさえ済めば、とにかく次の手を考える時間が出来るというものだ!

 3年間の付き合いで、その大阪人の男性オーナーは良心的な人だということが判っている。こちらに来る用事があればこの家にお菓子を持って寄り、生活空間に不足はないかと聞いてくれるナイスガイなのだ。綾や私を親戚の子供みたいに心配し、可愛がってくれている(と思う)。理由を説明したら、きっと1,2週間くらい待ってくれるだろう。よし、それだ!

 私が会社のデスクでそう決心したその日の夜、だけど、神様のバカ野郎!と罵りたくなる出来事が起きた。

 それは一つの電話だ。

 大阪に住む、この家のオーナーからの。

『おー、凪ちゃんか。ど~や~?そっちは二人とも元気してるかー?』

 いつもの通り、明るくて軽い親戚のおじさんのような言い方で始まったオーナーからの電話は、丁度よかったと一瞬喜んだ私の体を凝固させた。

 曰く、『こっちの都合で悪いんだけど、家賃の振込み口座を来月中にしめるから、次の家賃振込みは絶対遅れないで欲しい』そうだ。

『銀行の手続き上、面倒くさいことになるよって、堪忍な~』

 私は呆然としてしまっていて、実はハウスメイトである綾が失踪してしまったこと、私には貯金が全くないこと、それ故に、来月の家賃は遅らせて欲しい、とは、言えなかった。オーナーはせかせかと忙しそうに話すだけ話して、すぐに電話を切ってしまったからだ。ちなみに、電話を切る前にはこんなことも言っていた。

『それで、実は今晩からカナダに飛ぶんやわ~、せやからしばらく連絡取れへんけど宜しく~。おっちゃん戻ったら、土産またそっちに持っていくわな』