「あのー・・・。おじいさんの信託はわかったけれど、ご両親の遺言信託は綾の分もあるんだよね?だったら判るの。綾が必ず返すって何回も書いてたのが。だけど綾はもう去年30歳になってるし、それならお金に困らなかったって思うんだけど・・・」
どうして私の貯金に手を出したのだ。
それを聞くと、伊織君は痛そうに顔を歪めて首を振った。
「それが、ないんだよ。両親の信託も受益者は俺だけなんだ」
「はっ!?」
えー!?どうしてどうして?まさか、両親までも・・・。
私の顔を見て、伊織君はまたため息をつく。
「・・・姉貴には、婚約者がいた。大学卒業したらすぐ結婚する約束の」
「え・・・ええ!?婚約者!?綾に!?」
「うん。不動産で財産を築いている、裕福な家の息子と。二人は高校生の時から凄く仲がよくて皆安心してた。卒業まであと2年で、両親は姉は結婚すればお金に困ることはないだろうからと、姉の分の契約はしてなかったんだ。夢ばっかり追いかけているお前は心配だけどって言って。だけど、事故であっけなく両親が亡くなったあと、相手に一方的に婚約破棄されたんだ。・・・後ろ盾のない娘など、要らないと。姉貴は財閥の財産を継がないと相手は知ったみたいで」
「うええええ~っ!?何それ・・・酷い」
綾ったら!私は両手で口元を押さえる。怒りが湧いてきて、その見も知らぬ綾の元婚約者を頭の中で滅多切りにする。何てことを・・・そんなの人間じゃないよ~っ!



