水谷伊織と名乗った綾の弟に言った通り、私は努力しようとしたのだ。

 何とかしようと。

 普段通りの仕事をしながら金策を練ったり。短期のアルバイトに申し込んでみたり。だけど何ひとつうまくいかない。

 短期バイトは実入りがいいけれど、ショックを色々と受けて寝不足気味だった私の体にはきつかったようで、風邪を引いて熱を出してしまった。実入り、ほぼナシ。そして、相談に乗るよ、と散々言ってくれていた同僚の菊池さんに、ならばと思って「6万円貸してください」とお願いしてみたけれど、あははは~と華麗に笑ってスルーされてしまった。それも、仕方がない。逆の立場だったら私だって同じことをする。他人に貸す6万なんて余裕がないのは、皆一緒なのだ。相談は乗るけど金は出さない、それは普通のことだ。

 水谷姉弟のように両親が他界しているわけではないが、私も実家には頼れない。身内は年老いた母が一人だけ、そして母は少ない年金と自給自足のような生活で何とか暮らしているわけで、出来の悪い一人娘が困っていたところで母だってどうしようもないのだ。

 心配をかけるだけで一つもいいことがないから、実家には連絡しない。と、いうことは―――――――・・・。

 このままじゃおいつかないぞ、と自分でも認めざるを得ない月末近くに、私は決心した。

 家賃の振込みを待ってもらおう!

 だってもうそうするしかない。とにかくラッキーなことにはここの家の持ち主は綾の知り合いの友達とか何かの50代の金持ちおじさまで、個人的な賃貸契約を結んでいるのだ。だから敷金や礼金などもなく、固定資産税と家のメンテナンス代が賄えればそれでいいから~的な家賃で貸してくれている。