「それでよしってその気になって、なのに帰り道に、見ちゃったんだ。手を繋いで歩く二人を。俺、先頭の車だったから、横断歩道のはしっこ歩く人たちをボーっと見てたんだよ。そしたら凪子さんだし、いつかの格好いい人に手を引かれてる。もうがっかりしちゃって、もうその後は全然仕事にならないし、鷲尾にも先生にも迷惑かけて、帰れって怒られて。泣くになけなくて食欲もないし、勢いで酒買って」

「・・・あらあらあら」

 私は想像してしまい、可哀想に思って彼の頭をよしよしと撫でる。君、今日の午後はえらくボロボロだったんだねえって言いながら。伊織君は子犬みたいな無邪気な顔してそれを受けていたけれど、その内また目を開けて私を見た。口をぐっと引き上げて、大きな笑顔をする。

「だけど、手に入れたね、凪子さんを」

 よいしょ、と言いながら、彼は体を起こす。

「東さんの言う通り、ドーンとぶつかってみて良かった」

 そして毛布を肩まで上げながら私に跨がって見下ろし、嬉しそうな顔で言った。

「・・・もう一回しよ、凪子さん」

「え」

「まだまだ足りない。ずっと我慢してた分、まーだまだ」

「いや、だって・・・明日も会社が」

 私は赤面しながら視線を避けてあちこちに泳がす。だってさっき初めて抱き合ったときの余韻で、まだ足は力が入らないのに!それに多分、もう既に12時は越えているはずだ。まだ今日は火曜日だよ~!

「まだ俺達若いんだよ。ちょっとくらいの寝不足、大丈夫」