伊織君がくしゃっと顔を歪める。一瞬泣くのかと思った。だけど彼は、そこからゆっくりと笑顔を作る。ははは、と小さく笑い声が聞こえた。

 泣き笑いのような顔で、彼は呟くように言う。

「・・・凄く酔っ払って、夢みてる気分・・・」

 その一言で緊張感が部屋から消えた。ふふ、と私も笑ってしまう。

「凪子さん、それほんと?」

「うん」

「・・・もう一回言って」

「伊織君が・・・好き、だよ」

 今更になって恥かしくなってきた私は、両手で熱くなった頬を挟む。彼が私に近づいた。

「夢の方が良かった?」

 伊織君は首を振る。まさか、って。現実の方が断然いい、って。それからそっと手をとって、柔らかい笑顔を見せる。

「・・・すんげー嬉しい」

 彼が首を傾けて、口付けをした。

 さっきまで伊織君が飲んでいた日本酒の、甘い味がするキスを。