私は手を伸ばして一升瓶を抱え込み、先に台所へと戻る。量を見るとそんなには飲んでなさそうだけど・・・。何か食べるものあったかな。それに、熱いお茶を用意していたほうがいいかも、そう思ってお湯を沸かしにやかんに水を入れた。
窓とカーテンの閉まる音。それから、近づいてくる足音。私はそれを聞きながら、ヤカンを火にかける。
すぐ後ろで止まった足音に振り返ろうとしたその時、右肩にどん、と何か重いものが置かれてビックリした。
「うひゃあ!?」
「会ってたの、元カレと?」
叫んだ私の耳に、伊織君の低い声。
台所に立つ私の右肩に、後ろから自分の頭を乗せたようだった。私より背の高い伊織君は体を曲げて、額を私の肩に置いている。彼の髪の毛が右頬を撫でる。右肩にずっしりと感じる重さ。私はよろけて咄嗟にシンクを両手で掴んだ。
「・・・え?ど、どうして知ってるの?」
私は驚いたけれど、動けずにそのままで言った。お、お、驚いた~っ!!全身から一気に冷や汗が出た気がした。今のショックでワインの酔いも覚めてしまったもしれない。
私の肩にのせた頭をぐりぐりとこすり付けて、低い低い声で伊織君が言う。
「――――――見た。車で撮影からの帰り。駅前の交差点で・・・あの人と手を繋いでる、凪子さんを」
・・・げ。
私は思わず目をぐるんと回しそうになった。・・・よりによって、そこを見たの!?たまたま!?あんなに人が多かったのに!?
私の肩の上で相変わらずぐりぐりと頭を額を擦りつけながら、伊織君が唸る。



