「・・・凪子、さん」

「あの・・・ただいま。伊織君、どうしてこんなところで飲んでるの?」

 それも熱燗などではなく、日本酒を、冷のままで。それって風邪にまっしぐらのコースなのでは・・・。

 私はそろそろとしゃがんで彼と目線をあわせ、そう言った。すると伊織君は見開いていた目をパッと逸らして、小さな声でぶつぶつと言う。

「・・・そんな気分だったから」

「何か食べた?お酒だけ飲んでるの?」

「うん」

「寒くない?」

「・・・寒い」

 じゃあさ、と私はカーテンを押さえて掃き出し窓を全開にする。

「入っておいでよ。飲むなら中で飲んで。それに何か食べた方がいいよ」

「・・・いいんだ。俺のことは放っておいて」

 おや。酔ってる上にご機嫌斜めらしい。

 私はその冷たい感じの声にちょっと傷ついたけれど、こちらもほろ酔いなのでいつもより強気だった。

「何があったの?話、聞くよー」

「・・・」

 伊織君の表情は暗くて見えない。だけどムスッとしているようだ。私は風の冷たさに身を震わせて、縮こまる。

「おーい、子供みたいなことしないで。このままここにいて風邪引いたら、また仕事行けなくなるよ?」

 ちらりと彼が私を見た。だけどしばらくぼーっとした顔で夜空を眺めた後、一度頷いてゆらりと立ち上がる。

 よし、中にいれることは成功だ!