「・・・えー・・・と。伊織くーん・・・?ただいまー・・・」

 君は一体どこに?いきなり暗がりからばあ!なんてなしにしてよ~。

 私は緊張して突如ドキドキと煩くなった胸を脱いだコートで押さえながら、一階の真ん中で周囲を見回す。

 台所、居間、階段前、ワンフロアーの一階はすぐに見渡せてしまう。・・・やっぱり居ない。ということは、自分の部屋かなー・・・。

 私はため息をついてコートをソファーにかける。だって自分の部屋にいるのだったらわざわざは訪ねてはいけない。そんな勇気はないのだ。

 弘平との事が片付いたって、私達はまだ微妙な立ち位置で、複雑な関係・・・。

 とにかくお水を、と思って台所に行きかけたとき、階段に通じるところの掃き出し窓のカーテンが開いているのに気がついた。

 ・・・もしかして。

 私はゆっくりと近づいて、庭に面した掃き出し窓をそっと覗く。

 そこには縁側にあぐらをかいて座る、伊織君の後姿が。正確に言って後頭部が、見えた。

 ・・・あ、いた。

 私は緊張しながらも久し振りに見る彼の姿に微笑みそうになって、それからふと彼の横に置かれた瓶を見て、ぎょっとした。

 伊織君はこの寒い縁側で、何と日本酒を飲んでいるらしい。毛布を体に巻きつけている伊織君の隣に置いてあるのは、日本酒の一升瓶とコップだった。

 ・・・え、ええっ!?あまりお酒強くないんじゃ―――――――――

 焦った私は思わず窓ガラスをコンコンと拳で叩いて開けてしまった。途端に冷たい風が吹きつけてきて、口から声が漏れる。伊織君が、ハッと振り返った。