厳しい言葉を投げたのに、弘平が反撃してこなかったことには驚いていた。私に言いたいことだってそりゃたくさんあったはずだ。私だって完璧な彼女じゃなかった。なのに、彼は言わなかった。ただ聞いて、耐えて、帰って行った。

 それは以前の彼にはなかった、えらく大人な態度だったのだ。

「うーん・・・」

 窓際の椅子に座ってきらめく夜の街を見下ろし、私は思わず呟いた。

「・・・やっぱり格好いい人だった・・・」

 コーヒーは冷めてしまっていたけれど、それから私はちゃんと飲んだ。

 綾を思い出しながら。

 あの優しくて明るい同居人、今はどうしているのだろう。話がたくさんあるんだよ、と心の中で語りかける。

 綾、聞いてよ。ちゃんと向き合ったんだよ、弘平と。

 それで話もしたんだよ。

 今回はきっちりとバイバイも出来たの。綾のお陰で、私はちょっとは強くなっていたから。

 あんたが居たらきっと、いっぱい褒めてくれただろうね・・・。