「ちょっとちょっと、凪子さん」

 伊織君は立ち上がって、片手を上下に振る。落ち着けって言ってるのだろう。私はそこにつったったままピタッと口を閉じた。

 伊織君は両手を食卓について、覗き込むように私を見る。

「誰に、何を聞いた?」

 ぐっと詰まった。

 言いたくなかった。弘平や三上さんに言われたことは。無意識にごくりと唾を飲み込む。

 黙ったまま突っ立つ私を見て、伊織君は目を細める。だけどその内にため息をついて、こっちおいでよとソファーを指差す。

 私はそろそろと移動して、綾のソファーに足をたたんで座り込んだ。

「酒が欲しいところだけど、やっぱりコーヒーにしよう。凪子さんはまだカフェイン止めたほうがいいよね。お茶でも淹れようか?」

 伊織君がヤカンを火にかけ、棚を開けてマグカップを出す。私はありがとうと呟いた。

 緊張しながら待っていたら、伊織君はコーヒーと熱いお茶をローテーブルに運んでくる。そして自分は床に座り、ソファーに背を預けてこっちを見た。

「で、誰に何を言われたの。急にそんな話をしたわけが知りたい」

 伊織君はたまにする、例の「強い目」をして私を見ていた。

 ・・・オーノー。気まずくて、私は唇を噛む。話し出し方が悪かったのかな。こうなる予定ではなかったのに・・・。

 だけど彼は待っている。コーヒーを飲みながら、じっとこっちを見て。5分くらいで、私が負けた。

「・・・ええと・・・最近、多数の意見としてそのようなことを言われて、実はそうだったのかなあ~と・・・。伊織君は無理にここに住んでいて、それは私のせいなのかなあ~って・・・」