開けられたままの襖の向こう、暗い廊下が見える。階段を降りて、伊織君は台所に行ったようだ。

 ・・・お腹すいたな。伊織君と食卓につくのは実際勇気がいるけれど、ここは頑張るところだ。よし、食べて、元気と勇気を出そう。

 私は一人で頷いてベッドを降りる。

 そしてそして、ちゃんと彼と、話をしよう。伊織君の本音を聞かなきゃならない。私は、どうしても。

 部屋着に半纏を羽織って下に下りると、台所で伊織君がうどんを作っていた。その大きな体が小さな台所に似合わなくて、私はつい口元を緩める。そして、すぐにやってきた胸の痛みに顔を顰めた。

 これも、見れなくなるかもしれないのだ。

「どうぞー」

 スーパーで買って来たらしい鍋焼きうどんは、豪華だった。私はお礼を言って手をあわせる。熱そうで、やたらと美味しそうだ。彼も晩ご飯はまだだったらしく、同じものを作って食卓につく。

「ああー、温まるなあこれ!」

「本当だよね。風邪の時とか寒い時は最強のメニューかも」

 ふうふう言いながら、たまに鼻をかみながら二人で食べる。熱くてじんわりと出汁が染み込んでいて、美味しさが食べるそばから体に染み込んでいくような気がした。

 食べている途中で、伊織君がちらっと私を見る。ん?と顔を上げると、彼は真面目な顔で見ていた。

「どうしたの?何かついてる?」

 私がそう言って首を傾げると、伊織君はまたうどんをすすりながら言った。

「いや、もう普通だけど・・・。昼間、凪子さんちょっとおかしかった」