また涙が浮かんできて困った。

 私は彼から見えないことをいいことに、少し瞳を濡らしてしまう。

 ・・・あったかいのに、この背中は。温かくて、優しいのに・・・。

 ドアを開けて家に入ったら、伊織君は会社へと戻って行った。彼の背中にいるときに少し泣いてしまった私は顔を見せられずに、下をむいて靴をわざとぐずぐず脱ぎながら挨拶をした。

 伊織君はちょっと変に思ったかもしれないけれど、それ以上は平気なフリが出来なかったのだ。

 一人になった私は、薬を飲んでまた眠る。

 色んな感情がごちゃ混ぜになって、そこに悲しさが加わって、心の中は深い深いブルーだった。キスも、背中の温度も、思い出せる全部が悲しい。

 零れる涙はそのままにして枕に吸い取らせる。

 眠れ、私。

 今は眠って、そして次に起きたら――――――――――

 ・・・伊織君を解放してあげなきゃ・・・。