助手席の彼女はやっと声を出して、座ったままで荷物をまとめだした。伊織君は先に降りてドアを閉める。私はそれを後ろの座席でぼーっとしながら見ていた。

 すると、荷物をまとめ終わったらしい三上さんが、急にくるりと振り返って私を見た。

 目があって、私は一瞬体を硬くする。そこには紛れもない悪意の視線があったからだ。

「あのっ!あたし聞いたんです!水谷さんのお姉さんとあなたがもめて、水谷さんが一緒に住むようになったって」

 ・・・え?私は驚いて体を硬くしたままで彼女を見る。

 切れ長の瞳をきりりと吊り上げて、彼女は頬を赤くしながら早口で言った。

「水谷さん、普段仕事が終わっても遅くまでスタジオに残って、あたし達学生の課題の手伝いをしてくれたりしてるんです!でも最近ずっとだから、聞いたんです。そしたら、出来るだけ家に帰らないようにしてるって言ってました!それって・・・あなたのせいですよね?何があったかはあたしは知らないですけど、あなたがもしかして、ハウスシェアを水谷さんに強制してるんじゃないんですか!?」

 三上さんはぎりっと唇をかみ締めて、顔を歪ませて言った。

「水谷さんは優しいんですっ!今日だってこんな・・・水谷さんをいいように使うのはやめて下さい!」

 叫ぶようにそう言うと、三上さんはドアをパッと開けて荷物を両手で掴み、凄い早さで車を出て行った。彼女が力任せに閉めた助手席のドアで、車が大きく揺れる。

 私はマフラーに埋もれたままで、呆然と前を見ていた。

 ・・・夜、仕事が終わってるのに、ずっとスタジオに残ってるの・・・?