私はそろそろと起き上がる。気持ち悪さは消えていた。だけど晩ご飯を食べていないせいか、力がなくなってしまったような感覚だ。

「・・・ああ、やばい」

 だけどこれは水分をとらなきゃ。それに一度熱を測ってみなければ。

 私はそろりとベッドから這い出した。その途端にくらりと来て思わず壁に手をつけて体を支える。

 ・・・おっとお~・・・。き、気をつけて・・・。

 古い家の急な階段は、こういう時に刃物よりも凶器に成り得る。そもそも階段に電気もないので、私は自分の部屋の電気をつけて襖を開けっ放しにし、足元を照らした。中腰で階段を覗き込むと、一階の電気はついているらしく、途中からは明るくなっている。

 ・・・あ、もしかして、伊織君が帰ってきてるのかな?

 耳を澄ましてみたけれど音は聞こえない。今はお風呂に入っているのかもしれない。だとしたら、あまり顔を合わせたくない私にはチャンスだ。

 ゆっくりと階段を降り始める。もうお尻をつけて、一段ずつ――――――――

 判っていたから手をついていたのが良かった。途中で急な眩暈に襲われた私は、足がうまく動かずに引っかかってしまい、2段ほどずり落ちてしまったのだ。

「うきゃあっ・・・!」

 ダダダン!と音を立ててお尻や腰を打ち付けてずり落ち、痛さに悲鳴を上げる。

「あいった・・・た・・・」

 ほぼ寝そべるような形で階段の途中で何とか止まる。その時、足音がして、階段下にパッと伊織君の頭が覗いた。一階からの光で逆光になって、彼の表情は判らない。