「同棲じゃなかったんだな。あの人、綾さんの弟だって聞いたよ。どうしてあの場でそう言ってくれなかったんだ?」

 信号が青に変わる。弘平は車をスタートさせて、ナギ?と聞いてくる。私は仕方なく口を開いた。

「・・・まだ何も言わないうちに、あなたが勝手に誤解して喚いて出て行ったんでしょ。覚えてる?」

 敢えて嫌味な言い方をしてみた。だけど弘平は気にしなかったらしい。それもそうだな、と普通に返してくる。

「シチュエーション的に誤解は仕方なかったと思うんだけど、とにかく二人には悪いことしたな、と思って。綾さんの弟さん、ビックリしてただろ?」

「まあ驚いていたけれど、それより呆れてたよ。何あの人って」

 実際は伊織君はそうは言わなかったけど。それを聞いて、さすがに弘平は苦笑した。

 私は両手を膝の上で重ねて握る。よし、いいぞ、動揺してないし、相手のペースにはなってない。

「でも大丈夫。伊織君には、あの人は元カレで、たまたま会って送って貰っただけって言っておいたから。今日の話ってそれだけ?伊織君には私から言っとくよ、あなたが謝ってたって」

 そう言うと、弘平はハンドルを握りながら私を見た。

 こらこら、前を向いてくれ。都会の国道だぞ。

「綾さんがお前の貯金を持って逃げたらしいな」

「・・・そう」

「それっていくら?」

 私は弘平を見た。彼は横目で私を見ている。

「私にとっては大金だよ。でもあなたに関係ないから」

 意識してハッキリそう言うと、弘平は口元だけを歪めて笑う。それから軽い口調で言った。

「関係あるんだ。だって、いい解決策があるんだからさ」

 ・・・うん?