だけど、もう一人の自分も話す。

 ここでケリをつけて、本当に過去にしちゃわない?って。話を聞いて、それでお終いにしなさいよ、って。

 弘平は私の返事をじっと待っている。駅前の雑踏の中、歩道で立ち止まって見つめあう男女に、通りすがりの人々が好奇心に溢れる視線を向ける。喧騒。車のクラクションの音、若い女の子たちの話し声。

 私はため息をついて、頷いた。

「一度家に帰るから、家に送ってくれる?」

 弘平がにっこりと笑った。



 彼の黒い車は、国産車ではあるが、えらく高価なものなのだろうと思う。別れてから車を変えたらしく、私の知らないものだった。内装も黒で統一してあって、メーターなどが緑色に浮かび上がってキラキラと光っている。

 私は後ろの席に乗り込みたいのをぐっと我慢して、助手席に滑り込んだ。

 ここから家までだったら30分ほどだ。

 何を聞いても慌てないことよ、凪子!今日できっちりと終わらせて、彼を完全に過去の人にすること!よし!

 心の中でそう決意を新たにしていると、弘平は車を出しながら言った。

「あのさ、俺聞いたんだよ、綾さんのこと」

 ・・・・・・・・あ、やっぱりその話だったのね。

 私は返事をせずに前を向いてじっとしていた。夕方の6時前で道路は混んできている。信号待ちで車が停まった時、弘平が私を見たのが気配で判った。

「で、あの時の男が今の同居人だってことも、聞いた」

 私はただ、頷いた。