「話しちゃったの!?いお・・・水谷弟と同居してること!?」

「え?うん。だって腹が立つでしょ?塚村さんのこと、何かふしだらみたいに言うから―――――――」

 ガーン。

 私はがっくりして、彼女の手を離す。

「えっと・・・ダメだった?」

 菊池さんは困った顔をして、恐る恐るという風に聞く。私はため息をついたけれど、仕方がないから首を振った。別に彼女は悪いことをしたわけじゃないのだ。ただ、私としては誤解してくれたのはそのままにしたかっただけで。

「もうあの人と係わりたくないからさ、誤解されて丁度よかったって思ってたの」

 私がそういうと、菊池さんはごめんねって謝る。私、余計なこと言っちゃったねって。

「大丈夫、悪くないし、私の名誉のために言ってくれたんでしょ?ありがと。―――――さて、もう時間だからいくね。それ早く食べちゃわないと」

「あ、ほんとだ!」

 結婚の話はまたちゃんと時間をとって聞くからね、と約束して、私は食堂を出る。

 ああー・・・面倒臭い。

 だって、あの時、弘平は私に復縁を迫ったのだ。そして、これは彼の良いところでもあるのだが、やたらと正義感が強かったりする。

 綾の話を弘平が聞いた。それってちょっとヤバイかも―――――・・・。


 そう思っていたのは、的中した。

 その週末、いつものように5時上がりの私がたらたらと帰り支度をしてダラダラと従業員入口を出たところで、弘平が待っていたのだ。

「ナギ、お疲れさん」

 そう言いながら。

 今日も実にスマートな格好をして。