「自分がカナダ行っとったからなあ~。連絡つけよ思てもつかへんかったやろ。せやけど大変やったんやないかー!綾ちゃんが、まさかなぁ~。ほんなら凪子ちゃん、何であの電話の時そう言わへんかったんや!おっちゃんそんなん、いっくらでも力になったんに」

 ・・・そうか!あの家賃来月は遅れないでね、と電話の時か!私は記憶を掘り起こして東さんを見る。

「いやいや・・・東さんぺらぺら喋って、私が何も言わないうちに切っちゃったじゃないですか~」

「え、そうやったかな」

 しれっとした顔でそんなことを言う。

「ほんで?何でここに布団敷いてあるんや。あんた二階で寝てへんのか?」

 居間だったところに敷かれた伊織君の寝床と荷物の山を指して東さんが言うので、二人でたまに重なりながらここ数日の説明をした。それまではほぼ顔をあわせない生活だったことも、ついでに。

 東さんは交互に顔を見ながら話を聞く。それから、しばらく何かを考えているように黙って天井を見ていたけれど、よっしゃ、と言って立ち上がった。

「判った。とにかくもう住んでんねんからそれについては何もいわん。けどあんたのことは何も知らんから、これから知り合いになりにいこか!」

 え?と私と伊織君がはもった。

 東さんはジャンパーをぱっと着て、伊織君においでおいでをする。

「飲みに行くで。晩ご飯まだ食べてへんねやろ?男同士で話や」

「・・・あ、はい」

 伊織君は慌てて立ち上がり、まだ一階に置いたままの荷物の山からダウンコートを取った。