この家を私と綾に3年貸してくれているオーナーの東さんは、はっ!?と合計4回叫んだ。

 綾が失踪した、の時、私の貯金を持ち逃げされた、の時、で、申し訳なく思った弟がやってきて私にお金を返すと話した、の時、それから最後に、だけど現金の持ち合わせがないから一緒に住んで、家賃などを持つよ、という話になった、の時。

 よく判らないって顔のままとりあえず上がり、食卓に3人で座ってお茶を出したときは、東さんは伊織君相手にぺらぺら喋っていたのだ。

 おっちゃん名前はひがしと書いてあずまやでー、今年56歳なんや、兄ちゃんなんぼや?って。

 だけど私が椅子に座っていよいよ話し出すと、目を真ん丸に見開いたままでぽかんと口も開けていて、要所要所で「はっ!?」と叫んだ、ということ。

 今はまじまじと、穴があくんじゃないかと思えるくらいに伊織君を凝視している。それこそ、頭の先からつま先まで。

「ひょえ~・・・。驚いたなあ!ほなあんた綾ちゃんの弟さんか!」

「はい。水谷伊織といいます」

「ほんで、ここで凪子ちゃんと住んでる?」

「ええ、成り行き上そうなりまして。すみません、連絡が遅れてしまって」

 すっかり忘れていたのは私だ。一緒に住もうって話になった時にこの家のことは綾がまとめてきたので、そもそも私は契約書などをかわしたわけではないのだけれど、やはりオーナーには伝えておくべきだった。

「東さん、忘れてたの私です。すみません」

 そう謝ると、東さんはまだ目を見開いたままで伊織君を見ながら、いやいやと手を振る。