重いカメラのせいで腕が痛い。

 結局仕返しも出来なくて、私は早々に諦めることにした。

 伊織君もさほどお腹が空いてないというので、晩ご飯は簡単にインスタントラーメンで済ませる。私は色んなことを話しながらも、頭から映像が離れなくて困った。

 お風呂に入っても。

 自分のベッドに寝転んでも。

 デジタルカメラ越しに見た、伊織君の微笑んだ顔が。視界いっぱいの、あの笑顔が。瞼の裏に浮かび上がってくるのだ。

 細めた目の優しい感じ。嬉しそうなあの表情。

「・・・う~・・・わ~・・・・・」

 枕に顔をぐりぐりと埋めて、私は一人で照れまくる。消えろ消えろ消えろ~!もう止めて、ダメダメダメー!ダメだよ、この感じ。このうずうずするどうしようもない感じ!お腹の中が空っぽになったような、この不安定な感じ―――――――――――

 これはきっと、懐かしいあの・・・。

「私ってば・・・ダメだっつーの」

 顔はきっと真っ赤だ。

 ・・・もう、綾ったら!早く帰ってきてよ~。私はあんたの弟と住んで、ペースも全部乱れっぱなしだよ~!!ぐぬぬ水谷姉弟!あんた達ってば私の人生に係わりすぎよ~!

 心の中で綾に向かって叫ぶ。

 帰ってきて。

 早く早く。

 そして毎日を元に戻せば―――――――――――


 伊織君に恋をせずに、済むんだから。

 今ならまだ、引き返せるんだから・・・。