「ちょっと。目を瞑ってってば」

「いいけど、それしたらあの写真返してくれる?」

 ん?

 私はカメラから顔を上げた。何だって?

 伊織君はきゅっと口角を上げたままで、楽しそうに言う。

「寝顔撮ったらお互い様なんだよね?じゃあ俺が撮った凪子さんは返してね」

 どうしてそうなるのだ。

 私は半眼で首を振った。

「嫌です」

「えー?何だそれ。じゃあ俺も撮らせない。おあいこにならないじゃん」

 私は急いでカメラを構えなおしたけれど、伊織君はもうふざけながら上半身をぱっぱと動かしまくっている。こんなんで撮ったら、いくら性能の素晴らしいカメラでも私の腕ではブレるに決まっている。

「ちょっと~!動かないでってば!」

「寝顔は諦めたら?」

「諦めない~!」

 ぎゃあぎゃあ言いながら、それでも私は何度かシャッターを切る。伊織君はケラケラ笑いながら顔を思いっきり近づけたり手でレンズを覆ったりして邪魔してくる。

 続くシャッター音と私の喚き声、伊織君の笑い声。

 きっとかなり騒々しかっただろう。隣からうるさいって怒鳴られないかな、そうあとで心配したくらいには、騒がしかったはずだ。