「くうう~、悔しい!もうちょっとだったのに!」

「どうして俺の使わなかったの。そこにあるのに」

 上半身を起こした伊織君が、自分のカメラを指差す。私は口を尖らせた。

「あんな高価そうなもの、触れません!使い方も知らないし」

「使い方?そんなのどれでも一緒だよ。ほら」

 腕を伸ばしてカメラを手に取り、伊織君は私に渡してくる。え?と思ったけれどぐいぐい押し付けてくるので、自分のカメラを床において両手で受け取った。

「・・・重っ・・・」

「そこまでじゃないだろ?ここおして、レンズカバーを外す。ほら、覗いてみて」

 両手でしっかりと持って、言われた通りにカメラを構えてみる。レンズの向こうには微笑む伊織君。さっきと同じ人間だけど、とっても鮮明に見えた。・・・やっぱり全然違うんだな~!

「おおー、何か綺麗!すごいくっきり見えるような・・・」

「綺麗だなんて、そんな。俺は格好いいって言われるほうがいい」

「君のことじゃないでしょ、レンズに見える風景の話でしょ」

 構えたままで軽口を叩くと彼が笑う。本当にハッキリ見える。それに、ちょっと明るいように。多分それは明度を上げてるとか、露出がどうとか、あるんだろうな。

「はいはーい、じゃあ伊織君、もう一度寝転んで目を瞑って~」

「え?やっぱり撮るの、寝顔?」

「そうそう。諦めてないんだよ。ほらほらほら」

 伊織君は言われるままにまた布団に寝転んだけど、ちょっと面白そうな表情を浮かべてこっちを見てくる。